本と砂糖壺

本と散歩と、あれこれ

本屋大賞ノミネート作品を読む! ②

 今回取り上げる作品は『ひと』(小野寺史宜 祥伝社)です。

 

 高校生の時に事故で父親を亡くし、女手一つで育ててくれた母親を、故郷の鳥取に残し上京してきた主人公、「僕」の日常は、ある日突然変わってしまいます。母親が、原因不明の突然死をしたというのです。きょうだいもなく、身を寄せる親戚もなく、文字通り「天涯孤独」。仕送りもなくなり、大学を辞めて友だちも去りました。安売りのカップラーメンでしのぐ日々の中で、ある日、商店街の総菜屋で、最後の一つの50円のコロッケをおばあさんに譲ったところから、物語が始まります。総菜屋でアルバイトを始め、調理師免許取得を目指して、一歩を踏み出したのです・・・

 

 とまあ、こんな感じなのですが、ツッコミたいこと、いろいろ。仕送りが途絶えて中退というくだり、大学にはしかるべき制度があるんじゃないかな、とか。主人公の気の毒な状況がつぶさに述べられていますが、感情移入できません。「しっかりしな!」と言いたくなってしまうのです。帯には「泣ける」とか「感動した」とか賛辞がすごいのだけれど、それほどかしらん?

 たぶん絶賛している人たちは、控えめで優しく、一歩引いて人に譲る「僕」の性格に共感を覚えるのでしょう。そこがどうにも私にははがゆく、若者らしさもないように感じてしまうのです。

 

 読みやすい文体で、数時間で読了。終盤になって、やっとこの青年の良さが理解できた気がしました。両親は何も残せず息子を残して逝ってしまったようだけれども、優しく誠実に生きるということを、息子のDNAに残していったらしい。そして、息子はただ優しいだけでなく、優しさの上の「強さ」も身につけたことが証明されたラストに、「あっ」と思いました。

 本屋さんの店員さんがすすめるのは、こんなあたりかもしれませんね。じわりと効く一冊です。やや地味かな?という印象なので、他のノミネート作品と並ぶとどうなるか・・・?

 

 

 

 

 

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