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『また、同じ夢を見ていた』を中学生が好む理由(わけ)

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『また、同じ夢を見ていた』(住野よる/著 双葉社)

 私は学校司書をしています。学校司書とは学校図書館(図書室・・・と呼ばれることが多いですが)の担当者で、小学校などでは「図書の先生」とか言われたりしている人たち、と言えばイメージいただけるでしょうか。

 私の場合は中学校で働いていますが、昨年11月に、朝の全校一斉読書でクラスの友だちに読んでもらうために、生徒が家から(あるいは図書館で借りて)本を持ってくるという試みがありました。終了後、生徒およそ600人が実際に持参した本について冊数を集計してみたところ、ダントツの1位が『君の膵臓をたべたい』(住野よる)でした。そして以下、次のように続きます。

2位 「5分後に意外な・・・」シリーズ 『ぼくらの七日間戦争』(宗田理)

3位 『かがみの孤城』(辻村深月) 『また、同じ夢を見ていた』(住野よる)

 

 「5分後」シリーズは、どこからでも読める短編集。オチがあって面白い。一昔前の星新一さんや阿刀田高さんのシート・ショートみたいな感じですね。朝読書という、限られた時間で読むという状況を考慮して選んだ可能性もあり。それで2位になったのかもです。

 宗田理さんの「ぼくら」シリーズは、不動の人気のベストセラー。「七日間戦争」は1970年代の設定ですが、自分たちと同年代の子どもたちが主人公だという親しみやすさと、子どもが団結して大人に立ち向かうという驚きが、時代の古さを感じさせない魅力となっているようです。さすがですね。力のある作品です。

 『かがみの孤城』は、2018年の本屋大賞。話題の本には敏感な子どもたちです。加えて、やはり同年代の子どもたちが主人公なので感情移入しやすく、特に不登校を扱っているので子ども自身、深く考えさせられる内容でもあります。そして、鏡の向こう側の異世界という設定の斬新さ、不思議さが、心をつかんで飽きさせない仕掛けになっています。ついでにちょっとネタバレ的になってしまいますが、最後のどんでん返しも。

 

 とまあこんなわけで、選ばれるのには理由(わけ)がある。納得のいく作品たちですが、住野よるさんについては、すみません、私はいまひとつわからないのです。ダントツだった『君の膵臓をたべたい』については、「泣ける」とか「感動した」とか「何回でも読みたい」とかきくのですが、私は一回読めば十分だったかなあ・・・ 「意外なラストにびっくりした」という感想も多いのですが、確かに意外だったけれど、腑に落ちない感じを持ってしまいました。

 『また、同じ夢を見ていた』も同じ住野よるさんの作品なので、これはいいかなと手に取らなかったのですが、ここまで人気ならば、職業柄読まないわけにいきませぬ。モグリになってしまう・・・

 

 なぜ、住野よるさんの小説は中学生に人気なのか? 「膵臓」ではわからなかった答えが、「また、同じ夢を」では見つかるかも。そんな思いで読んでみましたところ・・・

 

 そうですね、これは合点がいくかもです。ふしぎなからくりが、最後に解けるということになっているのですが、完全にはわからない。設定の不確かさのようなものが残っていてモヤモヤした読後感なのが残念。一方、「幸せとは何か」を探すというのがテーマとして終始一貫していて、そこはすごくわかりやすくよかったです。最後に幸せについて答えのようなものも導き出されていて、そういう点ではすっきりします。

 過去や未来が交差する時間の流れがあることに途中から気づき始め、最後、結局本当はどこが夢なのか、ふと気になったりします。この不思議な感じが魅力なのかもしれません。さっき、モヤモヤ感が不満と描きましたが、モヤモヤ感こそが好まれているのかな・・・

 自分は何者なのか、自分は何者になっていくのか、定まらず、予想もつかずモヤモヤしている10代の子どもたちの心情に、するりとハマる物語。この辺りが人気の秘密かなあと推察するに至りました。

 いい年の大人の私には意味の分からなかった『君の膵臓』のラストも、そう考えると、不確定な今を生きている子どもたちに共鳴したのかなと、少し合点がいったのでした。

 

 ここまで読んでくださりありがとうございました。

 

 

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